元号が改まったからというわけでもありませんが、ちょっと昔のことを振り返ってみました。
わたしが大学事務に転職活動をしていた頃、もう10年以上も過去のことになりますが、業界事情の情報源は(今もそうなのかもしれませんが)もっぱら「2ちゃんねる」が中心でした。
もちろん半信半疑でスレッドを眺めていたわけですが、そこによく書かれていたのが、「補助金申請のような中枢業務をマスターしてファストトラックに乗る」ということでした。ちょっとカッコよく言葉を脚色しましたが、要するに、教務や入試のようなキツい部署を避けて大学職員人生を送るためのチート行為です。
はたして、この情報が本当であったのか、自身の経験を踏まえて振り返ってみたいと思います。
そもそも「補助金業務」とは
さて、話題の前提を確認する意味を含め、そもそも「補助金業務」とは何なのか?という点に触れなければなりません。国公立の運営交付金については実務経験が無いので、ここでは私立大学の関連であることをお断りしておきます。
まず、ひとくちに「補助金業務」と言っても、その言葉の意味するところの中には、純粋にオカネにかかわる「補助金申請業務」の他に、官公庁のデータ収集に協力する「調査業務」も含まれるのではなかろうかと思います。補助金を貰えるか無報酬かの違いはありますが、どちらも作業内容としてはほとんど同じです。本文では一括りに「補助金業務」と呼びます。
なお、科学研究費補助金(科研費)もボリュームのある補助金業務ですが、教員の事務代行という要素が強いので、今回の話題からは省くことにします。どちらかと言うと、科研費のような研究系補助金のほうが専門性は高いと思いますが、その専門性が業界内であまり評価されていないように思うのは、やはり教員の事務代行という低評価が理由なのではないでしょうか。
私立大学の3大調査・補助金業務
1. 私立大学等経常費補助金(補助金)
2. 学校法人基礎調査(補助金+調査)
3. 学校基本調査(調査)
そして、恐ろしいことに、これら補助金業務の事務依頼は、ほぼ4月に集中します。基礎調査と基本調査は名称も紛らわしいので一本化してほしいところですが、そんな泣き言(寝言)を吐いている暇すらない慌ただしさです。
では具体的に、これら補助金業務の内容はどのようなものなのか、という点です。上に掲げた3大業務のうち、作業マニュアルと提出様式の全てがネット公開されているのは「学校基本調査」だけです。下記リンクから「平成◯年度学校基本調査について>高等教育機関用」へと辿っていってください。
文部科学省「学校基本調査」
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/kihon/1267995.htm
詳しい説明は省きますが、マニュアルを読みながら、下図のような調査票を完成させていくのが補助金業務の基本です。調査項目は学生数から学校施設や図書館蔵書数まで多岐にわたるため、実際の数字作りはそれぞれの担当部署が行います。各担当者に指示を出し、調査結果を集計することが、補助金担当者の主な役割となります。
ちなみに、上に掲げた私立大学等経常費補助金の一部に、「改革総合支援事業補助金」というエグいやつがあり、これは7月頃に公募があります。何がエグいかというと、回答項目が多い、しかも複雑、提出まで期間が短っ!、さらに、項目内容が毎年のようにコロコロ変わる、という感じで、大学事務における悪条件の全てが詰まった業務といっても過言ではありません。
補助金業務は「ファストトラック」なのか
やや前置きが長くなりましたが、本題に移りたいと思います。結論から言えば、「補助金業務をマスターすればキツい部署を避けてヌクヌク生きられる」というのは、よほど教務や入試が嫌いな人が言い始めた『願望』なのだと思われます。
教務嫌いな人の思考経路
教務嫌い ⇒ 頭脳奉仕の蛸壺化 ⇒ 補助金w
まあ、このような思考経路なのではないかなと思います。「頭脳奉仕」という言葉が噴飯ものですが、わりと大学職員の中には頭脳奉仕側に立ちたいと願望している人は少なくないと思います。その願望をWin-Winな方向にむければ、補助金業務を蛸壺化させて独占しようなどという考え方にはつながらないはずですが。
そして、実際のところ、補助金業務を蛸壺化させれば、お局様のように担当の座に長く留まることができるのか?というと、そこまで専門性の高い業務ではないかなと思います。
この点については実際に、2ちゃんねるに書いてあった補助金業務の真偽を確かめようという関心もあり、経常費補助金、基礎調査、基本調査、改革総合支援事業、科研費のすべてを、1シーズンずつ主担当として志願したこともあるのですが、確かに4月の繁忙期を中心に、未経験でさばくのは大変だったという記憶があります。
また、補助金業務の1年目は大量のマニュアル読み込みに追われるため、確かに頭脳奉仕をしているかのような感覚もあります。ただし、(改革総合支援事業を除いて)2年目以降は記憶で対応できるため、アタマより手を動かしている感覚のほうが強まるのではないか、そう思います。
結局のところ、補助金業務は毎年不変のルーチン作業なので、2年目以降の「深み」というものはほとんどありません。その程度の専門性なので、いつでも担当者のチェンジはありうる、というのが結論です。
むしろ、文科省への認可届出業務などのほうが、申請内容によって事務処理が異なり、また、1から10までマニュアルに手続きが明記されているわけではなく、さらに、寄付行為や設置基準など求められる知識も変わってくるため、一発勝負のヒリヒリした緊張感とともに、やり甲斐(頭脳奉仕感w)はあると思いますね。
というわけで以上です。