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大学職員の人事考課 北里学園の事例を中心に

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働く業界や職種に関わらず、組織内での評価や処遇が労働意欲、すなわち働くモチベーションに直結することは言うまでもありません。

立身出世とは縁遠い大学職員の世界においても、毎春の異動シーズンともなれば、誰々が昇格したという話題が気にならないはずもなく、否が応でも自分自身の組織内評価というものを自覚することとなります。

そこで今回は北里学園の事例を中心に、大学職員の人事考課について考察してみたいと思います。

情報のソースは日本私立学校振興・共済事業団(私学事業団)のサイトから。

大学経営強化の事例集
http://www.shigaku.go.jp/jireishu_p082.pdf

人事考課制度の導入背景

同学園の人事考課制度は、大学を取り巻く環境の変化や、組織の硬直化などに対する人事担当常任理事の強い危機感を端緒として進められた。人事考課制度のスタートは平成16 年度であるが、以前より慣習として行われていた。

人事考課制度のスタートが平成16年度ということで、大学の歴史の中では最近の出来事と言えるでしょう。

「以前より慣習として行われていた」というあたりが大学業界のノンビリしたところかと思います。慣習として行うということは、すなわち、何を理由に昇格させるという明文的な根拠が乏しいということです。大学教員においては論文件数などがプロモーション基準になっている場合が多いと思いますが、事務職員については定量的な評価基準を設けづらいという背景もあるのでしょう。

こうした状況でどのような昇格人事が行われるかというと、言うまでもなく年功序列が中心となります。上記の引用文に「組織の硬直化」とあるのは、まさにそのことです。人事担当常任理事でなくとも、これでは若手のモチベーションが上がらんだろうな・・・くらいのことは思いますよね。

ただし、フタを開ければ人件費抑制が主目的の人事制度改革もありえますので、働く側としては注意深く制度設計を確認することが必要です。

人事考課制度の内容

同学園の人事考課制度の目的は「組織の活性化」と「人材の育成」である。

人事考課制度は職位ごとに考課要素を定め、「能力」「実績」「情意」「目標達成度」の 4 つの側面から評価している。人事考課の結果は人事処遇、給与処遇、賞与処遇、ならびに能力開発・指導育成に結び付けている。

上記のとおり考課要素は4分類され、各分類の中に2~5項目の評価項目が設定されています。具体的にはリンク先の資料をご覧いただきたいと思いますが、おそらく定期的に自己評価シートのようなものを各職員が作成し、これに基づいて上長と面談を行う仕組みかと思われます。

そして、人事考課の結果として目を引いたのが、賞与支給率の数表です。賞与ランクは最上位のSから最下位のFまで7つのランクが設定されており、上位3%のSランクでは賞与支給率200%(2倍)、逆に、下位3%のFランクでは賞与支給率0%となります。

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ここで私見を述べさせていただくと、この賞与システムは「やりすぎ」ではないかと思います。営業職のように売上という明確な評価基準が無い大学事務職員において、どれだけ合理的な人事考課システムを設計したところで、結局のところ上長による情実人事を排除することはできません。もし私が北里学園の一職員であるならば、賞与が2倍になる期待よりも、上司の好き嫌いで賞与がゼロになる不安の方が勝るのではないかと思います。

人事考課制度の導入による効果

情報源である報告書によれば、北里学園の人事考課制度の導入効果について、効果と課題が2点ずつあげられています。それぞれ引用しつつ、内容を考察してまいります。

効果①:職員の育成、成長の機会提供の場
考課者と被考課者との目標設定面談、考課結果のフィードバック面談により、職員に気づきを与える機会となっている。面談では仕事の指示・命令、報告・連絡・相談という日常のコミュニケーションから離れ、考課者と被考課者が改めて仕事の内容、質、仕事観などを率直に話し合う場となっている。考課者は部下へ成長への課題を示し、部下は希望や意見を伝え、信頼関係を構築することにも役立っている。

人事考課制度に基づく上長との面談により、職員の育成及び成長機会となっている・・・という、一見すると非常にもっともらしい効果が謳われています。

しかし、実際はどうでしょうか。この文章を読む限り、人事考課制度の成否は上長の考課能力に依存しています。果たして、多くの部下をかかえる上長が、常日頃から部下のことを詳細に観察しているでしょうか?

管理職経験のある方ならご理解いただけると思いますが、極論してしまえば、上長にとって部下の能力など日常の関心事ではありません。部下が優秀であろうと、そうでなかろうと、現有戦力で日々の業務を乗り切らなくてはなりません。部下に点数をつけている余裕など無い、それが上長のホンネではないでしょうか。

効果②:インセンティブを与えている
人事考課結果を賞与に反映していることにより、職員の前向きな姿勢を引き出す刺激となっている。「仕事をしてもしなくても同じ」という悪しき平等感が薄れ、努力した点や仕事に必要な能力を評価されるという認識が広まりつつある。

人事考課結果を賞与に反映させるデメリットは前述のとおりです。さすがに賞与支給率0%は、全事務職員にとって恐怖でしかないでしょう。

課題①:トッププレーヤーのみが目立つ
人事考課制度導入以前から部門ごとにトッププレーヤー、いわゆる「仕事ができる者」が存在しており、その者ばかり目立ってしまう。反面、他のメンバーの底上げが進んでいない。考課者に部下育成の姿勢を強く持つことを期待している。
課題②:絶対評価と相対評価
人事考課制度は絶対評価を基本としているが、考課者によっては相対評価も見受けられる。絶対評価を基本としながら相対評価となっているジレンマがある。

課題として2点あげられていますが、根が同じ課題かと思います。

たとえば、同じ上長の下に2人の課員がいたとして、そのうち1人(A君)がスタープレーヤーだとします。このような状況で、もう1人の事務職員(B君)はモチベーションが上がるでしょうか。おそらくは否。「この部署にいるかぎり、A君と働いている限り、自分の評価が上がることはない」と腐ってしまうに違いありません。私自身、このようなシチュエーションを数多く見てきました。

もしも絶対評価が確保されるならば、A君の能力とは関係無しに、B君の能力も評価してもらえるでしょう。しかしながら、定量的な評価基準が無い状況において、どのように絶対評価を行うというのでしょう。結局のところ、誰かを基準とした相対評価を行わざるをえないということです。

所感として・・・あるべき人材育成とは

大学不況の環境下、事務職員の能力開発、すなわちスタッフディベロップメント(SD)の重要性がそこかしこで議論されています。さらに、経営基盤強化に向けた人件費圧縮も喫緊の課題となっており、これら2つの背景から事務職員の人事制度改革に関心を持っている大学は少なくないでしょう。

労働組合の強い大学業界において、賞与と連動した人事考課制度を導入すること自体、非常に高いハードルがあります。北里学園においてはそのハードルを跳び越えることができたという点で、法人執行部の権限や組織力の強さを感じました。

一方で、私個人の所感として、成果主義による人事考課制度が事務職員の人材育成につながるか、という点について、いささか問題点を感じざるをえません。

まず、評価されない側の心情については上で述べたとおりです。主観的評価基準による相対評価においては、部署異動などの環境変化が起こらない限り、評価の序列は固定化され、評価されない側のモチベーションは減退するばかりです。

また、スタープレーヤーは処遇が上がれば意欲も高まるでしょうが、どれだけ厚遇を続けても、人間の能力には限りが有ります。能力が上がるほどに、ご褒美の効果は薄れていくでしょう。成果主義による人事考課制度は、投資対効果の面においても問題があるのではないかと考えています。

どのような制度設計をしたとしても、人間に点数をつける方法では、少ない利益のために、より多くのものを失うように思えます。

わたしたち人間は、それぞれが競技の異なるアスリートのようなものです。それぞれが異なるルールで、異なるトラックを走っています。全ての競技に適用可能な採点基準はありませんし、同じ採点基準で評価しようとする試みは不自然です。その不自然を私たち人間は根源的に嫌うでしょう。

私個人の考え方としては、一人ひとりに多少の優劣があることは当然として、それよりも重要なことは、優れていると思われた人に隠れた(隠した)弱点があり、意外な人に意外な取り柄があるということです。

実際に日々の業務に取り組む中では、成果主義による人事考課制度の恩恵よりも、意外な人の意外な取り柄に救われた経験の方がより大きいのではないかと思っています。

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