丸腰で本番に挑む「なんでも屋」
セブンイレブンであれ東京ディズニーリゾートであれ、一流のサービス業には一流のマニュアルがあります。その場対応力が顧客満足の決め手であることに違いはありませんが、それも確かなマニュアルが土台にあってこそ為せることです。
これらの企業と業界こそ違えど、大学職員にも接客的な業務やイベント対応は多々あります。分かりやすいところでは学生対応窓口のある学生部や教務部、就職部なども同様でしょう。研究支援系の部署では教員に対する窓口業務があり、寄付金担当の部署ではOB・OGや企業などが相手となります。 大学にとって最も重要なイベントは入学試験対応であり、その他にも定期試験や入学式・卒業式、オープンキャンパスや出張説明会など、年間を通じて数々の催しがあります。
多くの大学職員が「しんどい」と口にすることは、上記のような業務やイベントについてのマニュアルがほとんど存在しないということです。大手企業のように事前研修が充実しているわけではなく、配属初日から何も分からぬまま窓口に立たされます。他大学出身者であれば、その大学の学部名さえ記憶が定かではない状況で、教務部の窓口で学生対応をしなくてはなりません。
入学試験対応では全部署総出で試験監督などに駆りだされますが、担当者一覧とタイムスケジュールが記載された薄い要項を当日配布されるだけで、それ以外の説明は特にありません。入学式も卒業式も同様です。「何か困ったら近くの職員に聞く、それで大抵なんとかなる」という前提のもと、大学職員は常に丸腰で本番に挑む「なんでも屋」なのです。
事務職員の「レッテル」を背負う、という苦悩
わたしが大学職員になって間もない頃、とある先輩職員から大学教員の書いた会議資料のチェックを頼まれました。その資料はとても読みづらく、曖昧で冗漫な記述を多く含んでおり、業務文書としてはいささか問題があるように思われました。そこで最低限気になる箇所だけ修正して報告したところ、その先輩職員から「誤字が無いかだけ見てくれればよかったんだけどね」と言われ、結局のところ修正無しで会議に提出されました。
教員が事務職員的な仕事もこなす小規模大学は別として、教員と事務職員はこのような関係にあると考えて間違いないでしょう。よほど例外的なケースを除いて、課長になろうと部長になろうと、この関係は変わりません。30代の教員が50代の職員にタメ口を使うことなども驚くに値しません。最近では「教職協働」という言葉をよく耳にしますが、実際のところ同じ釜の飯を食う仲間というような意識はほとんどありません。
当たり前と言えば当たり前のことなので誰も口に出しませんが、やはり教員に対する事務職員の立場の低さは、なんとも言えない鬱屈としたものがあります。なるべく気にしないように心掛けてはいますが、ふと思い出すたびに憂鬱にならざるをえません。
「下り列車」の終着駅はどこに? ~人は減らされ仕事は増やされ~
ここ10年程度の間に研究支援系や学生サポート系の部署を新設した大学も少なくないと思われます。国による補助金政策の後押しもあり、今後はIR部門(インスティテューショナル・リサーチ)を設置する大学が増えてくるでしょう。
景気の良い業界であれば事業拡大とともに社員数も増えるのでしょうが、大学業界では職員数が増えるどころか専任職員から契約職員への切り替えが進められています。学生獲得のために高校生対象のイベントは増えるばかりで、こうした新規業務は部署横断的に人を出して対処しているような状況です。
大学という「下り列車」が20年後か30年後、いまと同様にどこかの寒村を走り続けているのか、あるいは何らかの終着駅に行き着いているのか、いずれにせよトンネルの先に明るい未来が見えないというのは、大学業界で働く人にとっての共通した悩みではないでしょうか。