すこし以前から、これまでの専門学校でもない、大学でもない、職業人養成のための高等教育機関を政府が考えているという話があったけど、これがいよいよ実現してしまうらしい。2019年からのサービスイン(開校)を目指すとのこと。法科大学院制度の炎上を鎮火しようともせず、また新しい学校制度を作ろうとするとは、まったく理解に苦しみます。例によってご関心があれば続きをお読みあれ。
まず、コトの概要を理解していただくために新聞の抜粋から。
政府は4日、産業競争力会議の会合を開き、経済成長に向けた人材育成策を示した。安倍晋三首相は「実社会のニーズに合わせた職業教育を行う新たな高等教育機関制度を創設し、学校間の競争を促す」と表明した。今月中にまとめる成長戦略に盛り込み、来年に制度の内容を固めて、2019年度の開校を目指す。
高校の新卒に加え、社会人の入学も可能にし、キャリアアップに役立ててもらう。既存の4年制大学や短大、専門学校から新教育機関への移行も認める方針だ。(共同)
毎日新聞ウェブサイト6月4日
新しい教育機関の位置付けを図解すると以下のようになる。
学校教育法の一条校なので専門学校とは違って「正規」の教育ライン。高等教育機関としては大学・短大と同程度の格付けとし、新たな「学位」まで作ってしまうというから驚きだ。言うまでもなく、そのような学位は「法務博士」と同じくらい無価値。
図表のネタ元は、文科省「実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の在り方について(審議のまとめ)」の資料36ページの図。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/061/gaiyou/1356314.htm
この「あらたな高等教育機関」について率直な感想を言わせてもらうと、大学と専門学校の間に何を作ろうとしているのか理解しがたいということ。大学ほどの看板も無く、専門学校ほどの専門性も無い、中途半端と言わざるをえない立ち位置。実践的な職業教育などと言うけど、そもそも就職先すらあるのだろうか。就職先が無ければどうなるか?法科大学院の失敗を繰り返すだけでしょう。
当然ながら、ちょっとググるだけで非難の声が多々聞こえる。そうした非難轟々の声を、ちょっとご紹介してみることとする。
「専門職の大学」という発想が示す教育の貧困
http://blogos.com/article/112108/
専門職の大学という発想自体が貧困!うーん、まさにこの一言に尽きるかも。政府がいくら美辞麗句を並べようと、専門職(=中小企業)の労働環境が据え置かれたままでは、学校教育の段階で格差を固定化してしまうことになる。
首相が言う「産業界にすぐに役に立つプログラミングを高等教育機関で育成」って、ブラックジョークだよね。そんなスキルは中国やインドの優秀なエンジニアが、驚くほど安いコストでやってしまう。そういうスキルではもう、日本人は太刀打ちできない。ITやエレクトロニクスの敗戦から何も学んでない。
— 竹内健 (@kentakeuchi2003) 2015, 6月 4
こちら中央大学教授竹内健さんの人気ツイッター。これも仰るとおり。要するに、学校で教えられるような技能なんて、すでにコモディティ化してるってこと。誰かが値下げに踏み切ったら、価格で追随せざるをえないのは牛丼業界と同じ構図。単価の安い技能なんか習得させて、明るい未来など待っているのだろうか。 もはや成否の行く末が見えてしまった感が半端ないんだけど、早くも撤退シナリオを提唱する有識者もいる。経済同友会副代表幹事で政策ブレーンでもある冨山和彦氏がそれ。3月18日に文科省で開催された有識者会議で提出された提言の内容があまりにマトモすぎて噴いた。提言の概要は以下のとおり。
1)退出ルールを予め定め、「成果を残すか」「退出するか」の二択とする。 2)制度開始時点では質を確保するために学校数を制限する。 3)公的助成の総枠を維持し、大学の淘汰を促す。 4)成果主義による優良校への大幅な優遇。
新たな教育機関にとって重要なのは1)と2)。新しい教育機関に必要なことは、まず第一に社会からの信頼。既存の教育機関にもまして、質の確保が重要となる。 1)は法科大学院の反省であることは明らか。自然淘汰に依存せず、レベルの低い学校には即刻退場させるということ。 2)は制度開始時点がとにかく重要だということで、第1期卒業生がどれだけ成果を残せるかが成否の鍵を握る。入学希望者にとって「狭き門」とすることで、学生の質を確保する。 実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の制度化に関する有識者会議(第12回) 配付資料 資料3 冨山委員提出資料 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/061/attach/1356054.htm という感じでつらつら書きつつ、次回もよろしくお願いします。