司法試験制度の「抜け道」とも揶揄される予備試験が、5月17日の短答式試験を皮切りにスタートしたというニュースがひっそりと流れた。今年もこのニュースを陰鬱な思いで耳にしている大学関係者も多いと思われ、それが本日のお題。例によってご関心があれば続きをお読みあれ。
さて、言うまでもなく、現行の司法試験制度では、法科大学院を修了して司法試験の受験資格を得るのが本道のはず。とはいえ法科大学院は2年既習者コースでも学費は安くて200万、3年未習者コースだと400~500万ほどかかったりする。教科書代や交通費などを含めると、これに50万は乗っかってくると思われ。 このような経済的負担から法曹への道を閉ざさないための配慮として設けられたのが、司法試験制度の「抜け道」とも揶揄される予備試験の制度。こちら、2011年から導入された。 予備試験のメリットは次の2点。すなわち、書籍代だけで司法試験の受験資格を得ることが可能な点、さらに、大学在学中に司法試験に最終合格することが可能であること。 まずは、オカネの面でのメリット。予備試験に合格すれば法科大学院の高い学費を払わなくて済む。逆の見方をすると、予備試験に合格すると200~300万の報奨金を貰えるようなもの。もっとも、予備試験受験組は予備校に50万程度の学費を払っているであろうから、そこは割り引いて考える必要はあるが。 さらに、大学在学中に司法試験に最終合格が可能である点、これがエリート職業である法曹人としては非常にデカい。法科大学院ルートでの最終合格は最短でも25歳だが、予備試験ルートなら22歳(大学4年)で合格するツワモノもいる。生涯年収に響くのはもちろん、大手事務所への就職を考えるならば、この年齢差は大きい。 もちろん予備試験突破の壁は高いが、それでも直近2年では350名程度が合格を果たしている。 この350名という数字が、いまや法科大学院にとっては小さくない。もしも予備試験制度が無ければ、この350名が法科大学院に入学してきたハズだからだ。 2015年度の法科大学院の総定員は3169名なので、なんと約1割に相当する。法科大学院の9割が定員割れしている状況において、歯痒い思いをしている大学関係者も少なくないはず。 ちなみに法科大学院の志願者数、入学者数は以下のとおり。青軸が志願者数、赤軸が入学者数。 見て明らかなとおり、志願者数も入学者数も最盛期の1/3になってしまっているので、毎年のように法科大学院の撤退も相次ぎ、下位校では入学者の減少に定員削減が追いつかない状況となっている。 なぜこのような状況に陥ってしまったのか。 そもそも法科大学院制度の設立趣旨は以下の通りである。
今後、国民生活の様々な場面で法曹需要が増大することが予想されていますが、これに対応するためには、その質を維持しつつ、法曹人口の大幅な増加を図ることが喫緊の課題と考えられています。 しかしながら、従来の法曹養成制度では、厳しい受験競争のため受験技術優先の傾向が顕著になっていたこと、大幅な合格者数の増加をその質を維持しながら図ることには大きな困難が伴うこと等の問題点が指摘されていました。 一方、大学における法学教育は、法的素養を備えた人材を社会の多様な分野に送り出すことを主な目的としており、プロフェッションとしての法曹を養成するという役割とは異なる独自の意義と機能を担っています。 また、学生の受験予備校への依存傾向が著しくなって「大学離れ」と言われる状況を招き、法曹となるべき者の資質の確保に重大な影響を及ぼしているとも言われていました。 このような状況の中、司法が21世紀の我が国社会で期待される役割を十全に果たすための人的基盤を確立するためには、司法試験という「点」のみによる選抜ではなく、法学教育、司法試験、司法修習を有機的に連携させた「プロセス」としての法曹養成制度を新たに整備することが不可欠であり、その中核をなすものとして、法曹養成に特化した教育を行うプロフェッショナル・スクールである法科大学院が構想されました。 http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/houka/houka.htm
いまとなっては世迷い事のような字面が並んでいるが、こんな甘言に乗っかった大学側の下心も見え透いている。 合否という結果が全ての司法試験受験生と、結果や成果が求められない大学とは、そもそも水と油のはず。入学者が減ろうが合格率が下がろうが教職員の給与は保証されるが、法務博士や三振博士の肩書とともに社会の暗部に放り出された若者はどう立ち直ればいいのだろうか。 この10年で分かったことは、法曹の質は教育ではなく競争により保証されるということ、そもそも法曹の需要など多くはないし増えもしないということだろう。 いまやネットの普及により、一般的な法律知識や事例・判例くらいは誰でもスマホからアクセスでき、法曹人口を増やさずとも一般人と法律・法務との距離は大きく縮まりつつある。 法科大学院の失敗を糧に、若者を甘言で釣るような大学作りをしてはいけない。 次回もまたよろしくお願いします。